危険な散歩道
2017/04/14
匠です。
前回に引き続き、ノアとアブドゥルとの放課後、
ノアがギターを弾き終わり、
アブドゥルが大麻を吸い終わり、
日の入時刻が近づいて来たので、
ノアお気に入りの近所の散歩道を3人で歩こうということになった
そこから西へ、陽が沈む海(湾)を目指して歩く。
黄昏時といっても、
1年の3分の2が降雨であるワシントン州の気
太陽は雲の切れ間から見え隠れ、
重い目蓋を擦りながら歩くのが似合う、
その様なエバレットでの散歩です。
歩き始めて、すぐ気付いたことは、
坂道が多く、起伏が激しい地形。
水辺が近いにも関わらず、風が吹き荒れていないのは、
あ、先程「海(湾)」と表現したのは、
目指している海は
島と島に挟まれた湾の様なもので、
実際に潮の流れを持つ海ではない為です。
その湾を目指して歩いている筈なのに、
散歩道では、急な傾斜をいくつか登る必要がある。
水辺が近づくと、急に下り坂になるのだろうか…それとも、崖?
僕たちそれぞれ3人が持つ
「宗教観」についての話をしながら
19世紀、ビクトリア風の家々を横目に歩みを進めます。
何気なく横目を過ぎる家が大きく、
やはりこの先坂を登り切ると、
その景色を横に構えるには、それ相応の地位が必要なのだ。
家も大きいけれど、歩道に跨る木々も立派なものだ。
樹齢数百年はあるだろう、
日本ではあまり見たことのない葉っぱの形や、木の皮の質感、色。
少し中心街を離れると、そこに暮らす人々と、
「共存」は少し美化された表現かもしれない、
「両立」とかかな。
特にお互い、
そんな戯言を頭の中で巡らせていると、
急にノアが茂みの多い道に入っていった。
僕はこういうアドベンチャラスな事は結構好きで、
少し驚きつつも、彼の後を着いていく。
アブドゥルは少し躊躇った後、
どうやら彼は蟲が苦手な様だ。
甘〜い香りの香水とか付けてるし、
色々なものが寄ってくるのも仕方がないね。笑
茂みの進む途中、何かが何度も首や手の甲を引っ掻いた。
この北米の地の特産、ブラックベリーの枝だ。
まだ実はなっていないものの、
カラッと乾燥している刺々した枝が道を阻むので、
どうしても手で避けなきゃならない。
その時どうしてもカリッと引っ掻かれてしまう。
1番困るのは、前を歩く人が目の前の枝を持ち上げ、
それが後ろの僕にバネの様に跳ね返り鞭打ちになる時。
本当に痛い。笑
(突き進むのに必死で、写真はお預け。)
ある程度進むと、急に整備された道が現れた。
「静かに!」
人差し指を口の前に立てたノアが僕とアブドゥルに小声で言った。
崖を見上げると、
どうやら、ノアのお気に入りの散歩道は、
私有地を通り抜けなければ辿りつかない場所を目的地としている様
若干の巻き込まれた感はあるが、
ここまで来たら、引き戻せない。
空も一層薄暗くなって来た、
陽が沈んでから、あの刺々しい枝に苦戦するのは御免だ。
一度その整備された道に出るとその後は楽、
腰を低くし砂利道を音を立てないように忍足で進む。
少しすると、
崖だ。
西の空を一望できる崖の端まで来た様だ。
西と北の水平線、島々を望むことの出来るそこからは、
水際が赤紫色に光る空を拝む事が出来た。
雲に隠れて太陽は見えないけれど、
その空を眺めながら、ノアが「あの島はあれ、あの建物はあれ」と色々と説明してくれた。
目に入るもので特に目立っていたのは、
港に数多く浮かぶ軍艦?とまでは行かないけれど軍事用である船々。
エバレットには海軍の基地があったんだね。
それに、かなり大きい。
大手航空機会社ボーイングの本部もこの町にあるので、
そういった意味では関連付いてはいるのかな。
僕は個人的に、国を守る為であっても、
なので、
人が発明した最も残酷な物が目に入ると、
複雑な気持ちになってしまうよね。
それでも、昨年の夏に1ヶ月だけホームステイ留学をしていた、
カナダのビクトリア島なんかを見る事が出来て、
少し懐かしい気持ちになりつつも、
暗闇の中またあの茂みを掻き進むのは嫌だと、
帰りを急ごうと彼らに促した。
流石に疲れたかな、
帰り道はそれぞれ口数も減って、
スタスタと夜道を進んだ。
ノアの家に戻り、何か忘れたけど、
鶏肉の何かとご飯を食べて、
その日は解散した。
その土地のことは、そこに住む人から学ぶのが1番、
しかし、あの散歩道、あれは少し変わっているね。
僕は楽しめた、また行きたいと感じていたけれど、
アブドゥルは「もう散々」と言った様子。
それもその筈、
長く伸びたゆるふわな髪には、
それにしても、
キャンパスで偶々出逢い、
その日の放課後、夜を共に過ごした、僕ら3人。
不思議だなあ。
ドキドキしながら始まった孤独な留学生活。
まさか1ヶ月も経たないうちに、
綺麗な夕焼け空が反射した水面を
私有地を超えた先
国籍や言語が異なる3人で
眺めることになるとは。
この日の出来事を、
今後忘れてしまう日は来るのかな。
将来、叔父さんと呼ばれる歳頃、
焼酎片手にこの写真を見て、
笑いながら回想したいものです。