屋根裏部屋
2017/04/14
匠です。
前記事の続き、
ノアくん宅訪問編です。
インタビューが終わり、彼の家へ歩いて向かうことに。
言葉の掛け合い、ながら歩きであったので、
体感5分、実際は30分くらいかな。
この距離を彼は毎日歩いているらしい。
その為だろうか、脹脛の発達が著しい。
「ここが僕の家」と告げられ、
目の前に現れたのは3階建ての一軒家。
どうやら、それぞれの階に異なる住民が別々に住んでいるようです。
「あれ?ここが主要玄関じゃないの?」
伺う間もなく、彼は建物横から3階へと続く階段を登り始めていました。
木で出来た階段と登り切った先にある簡易的な造りである正方形の小さな踊り場。
外に晒されたそれには雨水が染み込み、
黒く滲んだ木目を踏む度、ぎぃと音が鳴ります。
その様などうしようもない不安を横目に、
滑らかに通らない鍵穴をガチャガチャ、ノアが音を立てながらこじ開けていました。
ぎぃと扉が開くと、視覚よりも先に脳内を刺激する嗅覚。
言葉には著し難い、雑味を帯びた古く錆びられた、どこか懐かしい匂い。
そうだ、これは祖父の実家にある、物置倉庫の匂いだ。
直接逢ったことはないが、母の母、僕の祖母は昔美容室を経営していたらしく、
その祖母が亡くなった後、そこを物置部屋にしていた様だが、
使っていないその部屋にはカビが生え、湿った木造の壁が空気をうねり、
そしてかすかに残る美容室としての名残、整髪剤やシャンプー、リンスの香りが混ざり合う。
そんな芳醇な香りが家の中から屋内に上がる僕らを先に歓迎してくれたのです。
「お邪魔します」
「はい、どうぞー」
と軽い社交辞令を交わし、
家に入るとそこには平たくない天井。
中心部を境に、左と右に屋根裏の天井が垂れている。
本当にあるのか、ジブリ映画の様な世界感。
間取りについて、
6畳ほどの部屋が2つ(1つはドア無し)
それに合わせて4畳ほどの台所と、
3畳ほどの居間。
そして、手洗い場と湯船、シャワーが一体化した2畳ほどのバスルーム。
一人暮らしには申し分ない広さだね。
1つ見当たらないのは洗濯機、手洗いかな?
まあいいや、と特に気にもせず、
炊かれたままの炊飯器の中にあるお米と、
昨晩作ったのであろう、わかめの味噌汁が台所に置かれていた。
寮で碌な食事も摂れずにいる僕なんかより、ずうっと自立しているなあと、少し自分自身に恥を覚えた。
家に入るとすぐ、特に話を続けるわけでもなく、
ノアは自分の部屋に荷物を置いて、僕とアブドゥルは居間に荷物を置いた。
どうやら、2つあるうちの、ドアが付いていない方の個室が彼のスタジオ、ギター部屋の様だ。
何て呼ぶのかな、アンプ?変音機?
良く分からないけれど、色々な導線が部屋の床に蔦の様に蔓延っている。
それらを踏まない様に、座れるところを探していると、
いきなり高く歪んだ音が弾けた。
これが彼の音色か。
頭の中で、指先でくるくる回る輪ゴムの様に反復する音。
確かに心地がいい。
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— 三浦 匠吾 (@shg_mur) March 18, 2020
ノア宅初訪問の様子です。
動画は、その時に撮った彼の演奏、味が出ています。 pic.twitter.com/jsT4n1OyzE
特に楽譜を見るわけでもなく、彼の頭から指に伝わり、
次々と音が繋がれていく。
僕が今まで聴いてきた音楽とはまた違う、
未完成ながら完成された音色。
不思議な感覚だなあ。
アブドゥルは特にお構いなく、
彼の座ったすぐ横に置かれていたギターを手に取り、
「昔は俺もやっていたものだ」
と言わんばかりに壊れた弦をひょいひょい弾いている。
彼の出す音は繋がっていない。つん、つん、と、1つ1つの音が
「もっと長く生きたかった」
という様な嘆きを伴い崩れていく様だ。
ノアの演奏中にも関わらず、
アブドゥルは彼自身の世界に入っていく。
そしてノアは演奏を止め、
アブドゥルにより良い弾き方を教え始めた。
その切り替えの際、
「自分の演奏を邪魔された」
という不愉快さを上手く出さずにいた。
見込みがないと感じたのか、
ノアはアブドゥルに教えるのを止めて、
皆で近所を歩き回ろうということになった。
ノアのお勧めの散歩コースがあるらしい。
そういえば、留学に来て約2週間、
エバレット市内を駅周辺を除いて、あまり探索せずにいた。
丁度いい、この機会に町のことをもっと知ろうと思う。
次回はその近所散策の様子をお伝えします。