Orcas Isl. 5.13.19
朝9時起床
昨晩の自転車の疲れは身体にしっかり残っており、朝のベッドで重い腰を上げる。毎朝の日課、ヤギの乳搾りにはもう慣れた。
そして今日の僕は、朝の農作業(雑草抜き、水やり、雑草堆肥作り)にも乗り気である。なぜなら、今日の午後、遂に長らく待ち望んでいた出来事が実現するから。「ブロックス兄弟パーマカルチャー農園(Bullock's Permaculture Homestead)」への訪問である。この場所は”permaculture”という今(2019年夏現在)自分の中で一番ホットな分野の実践行を取り入れた最先端の場所であり、メッカである。僕のインターン先のヘイリーと、ブロックス三兄弟の長男ダグさんの妻、マリアさんは近しい知り合いであったため、今回は特別に園内を案内してくれることに。
昼過ぎに農園に着くと、入り口に大量の車が停まっていた。数は大体20台?ほどで、ワークショップか何かが行われているのかと思い足を踏み入れるが、とても静かな園内の様子。
山中大きな茂みの中に手の加えられた畦道を進んでしばらくすると、モンゴル高原に住む遊牧民が使用している移動式住居”ゲル”を思わせる空間が現れた。
ゲルを横目に少し進むと、大きな木製のテーブルに、20代前後だろうか、若者たちが集まって昼ご飯を食べていた。挨拶をし話を聞くと、彼らはインターン生であることが判明。十数名のインターン生は、一人のカナダ人を除いて全員アメリカ人で構成されている。外見はヒッピーそのものだが、昼食時の話合いの様子、彼らの真剣なまなざしはビジネスマン顔負けである。
再び足を進め、小さな小屋(約2畳程、高さ3メートル程)がいくつか現れ、「インターンはここに数ヵ月住むんだよ、凄いよね」とHaileyが呟いた。そして、その直後、それらの小屋たちとは比べ物にならない程立派な家が現れる。
その家は、ブロックス3兄弟の長男ダグさんと彼の妻マリアさんの実家であった。四角が嫌い、というダグさんの意向によりこの形にしたのだとか。
そして今回は特別に、ダグさんご自身が僕に1on1で園内を案内してくれた。インターン生に指導をしなければならないダグさんはとても忙しく、「5分だけな」と告げられ、結局僕に与えてくれた時間は30分を優に超えていた。あとから妻のマリアさんが「以前、彼が若い時に農業研修で訪れたコスタリカで、彼は現地の人々にとても優しくしてもらったの。だから、同じように遠くからわざわざここを訪れてくれた人には優しくしたいのよ」とこっそり教えてくれた。これを聞いて僕は、昨年2月に訪れたキューバでかなり良くしてもらったのを覚えている。当時スペイン語が全く話せなかった僕を、問題が解決するまで地元の人が皆で助けてくれた。
話が逸れたが、園内ツアーは限られた時間の中でとても充実したものであった。まず、ダグさんの家のある丘の上から下に降り、大きな池を見せてもらった。
元々何もなかった森に、30年以上かけて作られたこの楽園で、まず始めに施された作業「池づくり」。約20平方メートルもある平地を掘り、池を作り、今では7つの電動ポンプでそれを農園の一番高い所へ汲み上げて、重力を使って農園全体に循環させている。その際に必要な電力は、各所に設置された一面が2メートルほどの大きなソーラーパネルから供給されている。
まさに、パーマカルチャーの根源を見た、という感じ。最も大切である水の確保という「古代の智慧」と、太陽光で電力の供給されたポンプという技術「近代の智慧」の共存を感じた。
次に案内されたのは、石で造られた食料貯蔵庫。低地の日陰に位置するその室内はとても涼しく、湿度は低いように感じた。
林檎だけではなく、桃、梨、更には枇杷まで栽培しているブロックス農園。
多種に渡り、更に多くの収穫量の秘密は「Grafting(接ぎ木)」にあるようだ。実際に新しい枝が接がれている断面を見ると、異なる種類の枝が2,3本接がれている。
接ぎ木の成功率向上のためにも、色々工夫https://permacultureyaisho.hamazo.tv/e6809793.html が施されている。
ダグが行かなければいけない時間が迫り、最後に合わせたい人がいる、と別の場所に向かうことに。インターンが自己研究のため自由に使っていいガーデンスペースやグリーンハウスを少し見学した後、茂みを抜け、現れたのはもう一つの大きな木造の家。
ダグが玄関を叩き出てきたのは、何と日本人の女性。
まさか、遠く離れた北米の地、しかもワシントン州の数多く存在する島々の中の1つの島で、祖国を感じる瞬間が訪れるとは思わなかった。インターン生に優しい日本食と、素敵な笑顔でみんなに幸せを分けている。百合子さんご自身も、急に訪れた若い日本人に驚いている様子。日本から、一人で農園を訪れた学生は初めて、ということを聞いて意外だと感じた。なぜなら、この農園は、日本でパーマカルチャーを広める先駆けとなった共生革命家、ソーヤー海さんによって、日本国内で有識者の間で広まっているからである。この農園については、海さんがここでインターンをされていた時から、彼自身の公式サイトで10年近く発信され続けている。「東京アーバンパーカルチャー」は、彼が行っている代表的な活動である。
百合子さん、Samと軽い会話を交わした後は、Dougが行かなければならない時間が迫っていたため、僕を待っているHailey, Geo, Louie, そしてMariaの待つDougの家に戻り、少し寛ぐことに。
実際にマリアとヘイリーは島内の若者(小学生から大人30代手前)を集め、Aerial Danceを指導し、去年の冬、雨の多い農作が余り行えない時期にコミュニティセンターで披露したらしい。約一時間にも及ぶパフォーマンスの中に、7つの色(白は空、青は水、赤は火…)を用いて自然界を表現し、黒(心の侵された人間)をその7つの自然の妖精たちが救う、というクリエイティブな内容である。きっと、子どもの様な純粋な心を持つ人々にはその人それぞれの表現、受け取り方があり、見る人により内容が異なるパフォーマンスなのだろう。
ダグとマリアの家で寛いだ後、彼らの娘がフェリーで島に戻って来るそうなので、彼女を拾いに向かう。娘の名前を忘れてしまったが、彼女はサンフアン島の高校に通っている。オーカス島にも高校あるのだが、どうやらサンフアン島の高校の方が教育の質が良いらしい。毎日フェリーに乗って高校に通う学生が約数十名。その中の一人がブロックス農園の少女なのだから、「教育」がどれだけ重要かということが間接的に伝わる。